「ホモセクシャルの世界史」海野 弘

他でもありませぬ、私はゲイカルチャーの研究なんかが大好きです。といっても本を読んだりするぐらいなもんですが、最近のゲイ雑誌のアートからミケランジェロまで、非常に興味を持って読めます。

で、とりあえず興味はあるって人にも勧めたい、濃い~読み物がこれ。

とにかく、ジャパンやアジア系以外のゲイに関しては古代ギリシャから近代ハリウッドまでてんこもり。そんな具合ですから結構浅い部分もありますが、こんな人いるんだ、て興味もって資料調べるには満足のできばえです。とにかくワイルドコネクションやYMCA、当然ニジンスキーまでひじょ~に詳しいコネクションが紹介されていて面白いです。あとはハリウッド。この人もゲイなの!?というミーハーっぽい驚きも楽しめますよ。巻末資料の豊かさも魅力で、作者さんのがんばりっぷりが伺えます。この人、レズビアンの本も出したいらしいのでそっちも凄く期待しております

個人的に興味もてたのは美術関係。シュルレアリストの話のところも結構楽しかったです。相違や姉がブルトンはホモに冷たいって言ってたなあw

あと作者さんの個人的見解も結構入ってたんですが、それで納得だったのは「よくゲイという部分を避けて伝記を書いている人がいるがこれはどうにも生ぬるい」って所。ランボーやカラヴァッジオからそこを除いたら、何にもならんと思うんです。NHKがオスカー・ワイルドをあんまり扱わないのはそこだからなんだろうか、と穿ちすぎな見方をしてみたり。

まあとにかく、一読しただけでゲイカルチャーの奥深さ・面白さがわかるので、是非お勧めします。「妄想は楽しいけどリアルはちょっと」という、所謂腐女子の方も手にとって見てはいかがでしょうかwもちろんモノホンゲイの人も知的好奇心があるひともどうぞ。

あとは日本のゲイについてまとめたやつがあれば最高なんだけどね…

「ウォーターメソッドマン」ジョン・アーヴィング

今回は読みたてほやほや、ジョン・アーヴィングのウォーターメソッドマン。

のっけから泌尿器科でフランス人に治療を受けている主人公、ボーガス。このシーンがまたしょっぱなから面白いんですよ…。

ボーガスはもう結構いい年で、博士号取得のため古代低地ノルウェー語というわけわかんない言語を研究しており、その研究対象は「アクセルトとグンネル」。
しかしこの男、イマイチなにに打ち込みたいのかわからず、ちっとも進まなくなり、ついにストーリーのでっち上げまでやり始めます。おまけにチンチンの病気で泌尿器科を出入りするも、はっきりした対策は見つからないまま、冒頭のフランス人の泌尿器科に勧められたのが水療法というふざけたもの。これがタイトルの元です。

彼はバツイチで、前の奥さんのボギーと、今の恋人トゥルペンの話し、あと彼がサウンド担当をしているラルフというドキュメンタリー映画監督との話しあたりがメインでしょうか。
章ごとに分かれていて、しかも時間軸もゴタゴタ、でもその分「ああ、ここはこうつながるのか」とわかって面白いです。語り口も「僕」だったり「彼」だったりして、凄く散らかった印象。でも口語体の文章はどこかピリっとしていてユーモラス、でも少し悲しい。

もう青春って年でも無いんだけど、主人公はいまいち大人になりきれず、しかもそのまま父親になってしまう。彼はその実感がわかないまま、現実から逃げるように国外に心酔していた友人・メリルを探しに行きます。
このメリルという男がまた面白くて、糖尿病なんでインシュリンをうってるんだけどこれをうちすぎて、しかたなくまた糖分をとり、そしてまたインシュリンを…の悪循環を繰り返す、まさしく主人公にぴったりの悪友。ボーガスの心にはいつもこのダメ男、メリルが理想の人物として登場します。

はっきりしたストーリーってのはないんですが、凄く面白かったです。本当にダメ人間で、別に苦しいコンプレックスがあるわけでもなんでもないんだけど、いまいち大人の世界になじめず、それなりに楽しくやってるのにやる気もなくて、何にもうちこめない、っていう主人公です。でも彼は子供と過ごしたり、色んなものを経験していくうちに少しずつなにか、目には見えないのに変わっていく。エンディングはハッピーエンドなんだけれども、彼がどうなるかはわからない。ただ妙にさわやかなボーガスの独白だけがぐっと心に残ります。

このボーガスって男はいいな、って思ったのは、彼は自分の息子に「白鯨」の創作話をするんです、船長が主人公じゃなくて鯨が主人公の。それで巨大な鯨の話をして、海を見つめながら、心の底から「このこのために鯨を出してやりたい」って思う。すべてが物語であることをわからせたくなくて。

でも結局、息子がある程度大きくなって会ったとき、ボーガスが「鯨を見た、確かに島かなんかだったかもしれないけど、水をひれで叩くばしゃって音が聞こえた」っていうんですが、子供は「やっぱり、ただのお話だよ」と答える。その時ボーガスは、この繊細かつ愛すべきダメ男は、泣きそうになってしまうんですよ…。

本当に憎めないし、誰でも心のどこかでこういう、迷惑だけど魅力的な男を求めてるんだな、と思いました。彼が冷たくされたり、酷い目にあったりすると、彼自身に責任があるのに、やっぱり気の毒に思えてしまう。そのせいか知りませんが、ボギーはあんまり好きになれませんでしたねえ…スークも…。

エンディングはさっぱりしてるんですが、とっても幸せな気持ちになれます。ボーガスの未来に幸あれ。願わくば彼の身に、飽きることの出来ない様々な出来事が起こり彼が退屈せず過ごせますように、と思ってなりません。大好きだこいつ。いやほんと、脇じゃなくて主人公がこんなに愛しい小説も少ない気がします。あと訳も素晴らしいのか、あっちこっちおかしくってたまりません。読みながら何度も笑い声がでました。サリンジャーが好きな人なんかも好きそうですね。おすすめです。

スタージョンについてちょっと

自分がなに読んだか覚えておくためだけの書評、というつもりではじめたのですが、まあたまには作者のことを書いてもいいかと。でスタージョン。すげえ好きな作家です。愛してる。


SF作家として知られていますが、ミステリーの範疇にはいる…のかな?という作品も多数かいています。特徴として、文章がうまい(私も原文は読んでませんが)、そして頭のねじが2,3本とんでそう、ってことですか。


何しろブルドーザーが人を襲うものから、性別の区別ない人間が生きる星、当時珍しかったホモをテーマにしたもの等、とにかく節操無く設定から人物まで奇想を練りこみまくる。

しかも凄いピュアな人なのか、前述した性別の区別の無い星は、ここまでやったら気持ち悪いだろ、てくらい極端な男女平等なのですが、驚いたことに彼はそれを何のアイロニーでもなく、「これって理想郷じゃん?」て感じで、当然のごとくかいておられるのであります。

ホモの話にしても、なんら社会問題やらを持ち出すことなく、純粋な愛の物語としてかかれているために、どうにも違和感がありさながらそういう趣味の女の人がマンガなんかでかいているアレやソレみたいです。

極端な話をすると、すごい共産思想なんですね彼は。極端すぎ。ついていけない。


でも彼が書く話がどことなく悲しいな、と思うのは、社会のはみ出し者が出てくることが多いから。どこと無く違和感を感じて打ち解けることの出来ない人達。そしてそういう人たちの行き着く先は、どうしても明るい未来ではありえないことが多いんです、彼の小説の場合。しかもそれを、おかしみ交えたちょっと狂った設定でかくもんだから、なおさら悲しく感じてしまう。しかも何故か大抵、キモメン。その設定はいるんだろうか、と思うこともしばしばですが。ただでさえ精神的不具の方達なのだからそんなハンディはもういらないっての。


ご本人の話をちょっとさせていただくと、パーティ会場で人目もはばからずバク転したとか(何があったんだよ?宇宙人に襲われたのか?)、若い頃彼どうしようかと思うぐらい美男子だったよお(意訳)とかの有名なSF作家ハインライン氏に言われたりとか、あと作家として成功しかけてたのに突然ホテルを買ってビジネス始めちゃったり(女に作家やってよあんた、て言われてまた書き出したとかな)、自分で「これ、俺の最高傑作かも、すごくね?」とかいってた作品が読んでみたらスゲーつまんなかったり(私見ですが。ちなみに「ここに、そしてイーゼルに」てやつです)、本人も結構突っ込みどころ満載な感じです。キモメンの話とか、はみ出し者の話とか書いてるのにご本人はイケメンで世渡り上手な感じなんですね。畜生が。


ええっと、彼の作品はまとめた全集とかも無いので根性で集めてください。前紹介した輝く断片は河出のハードカバーですが、もう一個同じ奇想コレクションで「不思議のひと触れ」。こちらは少しSF要素もあり、なによりファンタジー要素が強いのでそういうのが好きな方にもオススメ。はっとするほど孤独の描写が美しいです。

あと『海を失った男』こちら晶文社のハードカバー。「墓読み」が大好きです。これもファンタジー色強し(こうしてみるとコイツSF少なすぎね?)。これは全体的に奇想作家としての色合いが強いかな。ホラーっぽいのもありますよ。ここまで日本オリジナル短編集。

あと最近復刊した「一角獣・多角獣」ってのがありますが、私読んでません…アメリカででた短編集のそのまんま日本語訳なんですが。収録作の殆どが他の本で読める上に、何作かがページ数(ソレと多分、内容だろうなあ…上のホモの話はこれにはいってました)の関係で省かれてます…。


あと単行本。『時間のかかる彫刻』(上で話した「ここに、そしてイーゼルに」収録。スタージョンの自慢げな顔を想像しながら読むとムカムカするのでお勧め。でも他の作品はいいよ)、中編の『夢見る宝石』『きみの血を』(←ヴァンパイアもの。未読)あたり。

ホモセクシャルがテーマの「たとえ世界を失っても」(またクサいタイトルだよね…)は、河出文庫20世紀SF2、1950年代、初めの終わりというアンソロに入っております。ちょっとあまったるい感じもするけど、凄くいい話です、これ。

長編は国書刊行会の『ヴィーナス・プラスX』。例の性別の無い世界ってわけですが、面白いんだけど、これから入るのはあまりお勧めしないかもしれません。



とにかく、知ってると人生で凄い得をした気分になるので(一粒でミステリ・ホラー・ファンタジー・SFとおいしいし)なかなかいい作家さんです。是非お勧めをします。


まずはこれ「輝く断片」シオドア・スタージョン

まずはこれ。シオドア・スタージョンの「輝く断片」。

スタージョンという人は大体SF作家なのですが、この日本独自の短編集ではミステリ系ばかりを集めております。大好きな作家さんなんですが、正直言うとこの人のはSFよりミステリ系の方が好きです。多分あんまり科学知識の無い人だと思う。

んでこれ。基本的に入っているのは、ミョーな味わいの下らんナンセンス系と、死ぬほど切ない系に分かれております。これが名品ばかりで、選択した方が一番偉い、と思えるくらい。個人的には「君微笑めば」から先は皆切ないと思います。

一個だけ話を上げると、「マエストロを殺せ」。主人公はブサイクでぱっとしないMC。んで彼がついてるバンドのリーダー、ラッチは男前で演奏がうまくて、性格もまあ、いい奴。人当たりがよくて天才で、面倒見もよくて。それに比べて主人公はどちらかというと陰気、それもMCという仕事のせいかどうにも卑屈な男です。んで、彼らのバンドのピアニストがやめてしまい、かわりに女の子のピアニストが入ってくるんだけど、主人公はすっかりこの子にのぼせ上がってしまう。でも女の子はすっかりラッチに夢中。それをきいて主人公はラッチを殺すことを決意する。

どうもこれ以上かくとネタバレになってしまうんだけど、主人公の気持ちがすっごくリアルです。ラッチみたいに何もかも完璧に見える人間っていて、でそういう人に限ってちょっとしたはみ出しものとか、卑屈な人間に対して何か手を伸ばしてくるんだよね。でもそういうのがやられるほうは苦痛に近くて、バカにされてるような気分になる。主人公は本当に陰気で、嫌な奴でもあるんだけど、少なくとも個人的にはとても感情移入できました…よ。

あと言い忘れてましたがこれ、ジャズ小説です。またこの描写が凄くて、メンバーの演奏が伝わってくるよう。メンバー一人一人の個性までばっちりかかれてるんで、バンド小説としてもかなりの完成度。楽しめます。またラッチがなかなか死にやがらねえんですよコイツ…。

他にも、書類で決まる社会っていうのを、溶け込めない頭の弱い男の視点から皮肉っぽく、おまけに悲しくかいた「ルウェリンの犯罪」も凄いです。

主人公ルウェリンは、周りの男達が罪を犯してることを(今日あのスケとヤッタんだぜえとかいう感じ)自慢げに話すのをきいて、自分も何かしら、秘密の罪を持たないと考えてるわけです。そんなことを真剣に考える主人公が笑えるなあ、と思ってますと、あれよあれよという間にいろんなことに巻き込まれ、意外な展開になります。そしてラストは…泣けますなあこれも。

この短編集に入っている、切ない話はどれも、何かしら悲しみや怒りを持つ主人公達の周りにいるのは比較的普通の人たちです。主人公に悪意ももってません。それどころか思いやりさえする。けどそれが主人公には重荷になる。なにかのため、といって手を伸ばしてくる人間と、自分はここにいたいんだと静かに思い続ける人間と。後者は所謂「生まれたことが失敗」て人間なんですね。生きてる世界が違いすぎて、何をやっても傷ついたり傷つけたりしてしまう。

基本的にちょっと特殊な、繊細すぎる人間が主人公であることが多いんですが、そうした要素を少しでも持ってる人なら誰でも彼らに共感できると思います。切ない話を読みたいけどクサい奴はちょっと、話も面白くないとねえ、という人や、純粋に奇想作品好きな人にもお勧めできます。捨て作品のないまさしく傑作短編集。