「ソラリス」スタニフワフ・レム


さて今日のレビューはスタニフワフ・レムのソラリス。最近クルーニー主演で映画にもなりましたが、もうあれ全然ダメです原作ファンには。本当にもう。全然ダメです。2回言うぐらいダメです。大体主人公がイメージじゃないんです。もっとこう、元気のなさそうな人がよかった。つかねー原作はもっとスリル満点なんですよ。難しいけどスリルはあるの。かなりの娯楽小説ですよ。ほんとに。

とにかく肝心の紹介に行きますと、主人公ケルヴィンがソラリスという惑星に着陸するところから話は始まります。ステーションについてみるとどうにも荒れ果てて様子がおかしい。しかも誰も迎えに来ず、人気も無い。ケルヴィンはそんな中でやっと一緒に仕事することになっているスナウトという男に会うことが出来ます。しかし彼は何かに脅えているようで様子もおかしく、しかも何が起こっているか話そうともしません。

ケルヴィンはいぶかしく思いながらも、生活していくうちに彼にもそれが飲み込めてきます。なんと目の前に死んだはずの恋人が現れるのです。

ちょっとネタバレしすぎた気がしますが、これが大体の話です。このソラリスという惑星には有機的な形成物である「海」が存在します。知能をもった海であることはわかっていますが、これが謎な存在で、一時期はかなり人の興味を引いたものの、今はほぼ忘れられかけているものです。その理由は理解不能だから。海は知性があるくせに、それを使おうとはしないんです。知覚はあるけど知識や好奇心というものがなく、完全に眠った知性なのです。ケルヴィンたちはこの海に振り回されることになります。

紹介しといてなんですが、凄く敷居の高い小説だと思います。まず、ソラリスの研究をたどる歴史。これがえらく長いし、難しい。でも凄く面白いとも思うんです、ここ。凄く細かい描写なのに、その姿形を想像することが出来ない。これは人が受け入れることの出来ない、大きな謎を表してると思うんです。

例えば私達がまだ外人さんにあったことがないのに、風の噂で「世界には2mくらいあって色は大理石のように真っ白、目の色も真っ青な恐ろしい人間がいるんだそうな」と聞いてもしっくりこないですよね多分。酷く恐ろしいもののように思うに違いありません。ソラリスを理解できないのもそれと一緒。みたことがないからです。見たとしたって理解できない存在なんですから。その絶望的なまでに謎な存在に胸が躍ります。

でもここ、難しいですが飛ばしても問題ないと思います。現に、これ2つ訳がでていて、私が持っているのは国書からでている「ソラリス」沼野訳なのですが、もう一つ以前に出た「ソラリスの日のもとに」というタイトルのものがあります。これはそこの部分を大方省いてしまっているのですが、私が先に読んだのはこれでした。

ソラリスにはケルヴィンのほかにスナウト、ギルヴァン、サルタリウスという科学者がいます。そしてカレラも同じようにソラリスに惑わされるわけですね。でも面白いのは、彼らが何を見ているのか、明らかにされないことです。彼らが何に怯え、何を隠そうとしているのか、それは最後までわかりません。これがまた妙にリアリティがあって怖いです。

映画ソラリスを見た人ならわかると思いますが、これには恋愛小説の要素もあります。ケルヴィンは最初は死んだ彼女を前に怯えながらも、段々彼女を愛していきます。そして彼女はまた、その存在故に自分のアイデンティティに苦しんでいます。映画の結末はどうにも安っぽかったですが、原作の結末はぐっと来ること請け合いです。

読後感は人によって様々だと思います。中途半端だとか、いやこれでいいんだとか。ネタバレにならないようにいいますと、これは多分「謎をどう扱うかの勇気」だと思います。作者自身、人類はいつか、手に負えないような謎を目にし、そうしたときどういう行動をとるか、ということをとても気にかけていた人です。宇宙に何らかのサプライズがあると本気で信じてる人なんですよ。ドリーマーですよね。数年であっさり宇宙人はいないと見切りをつけちゃった某有名監督とは大違いのピュアさです。

とにかく、サスペンスあり、恋愛アリのすごく面白いSFの大名作です。私、これがSFにはまるきっかけになり、旧訳「ソラリスの日のもとに」と新訳「ソラリス」あわせて何度も読み返しました。こんなに読み返した長編はこれだけです。高そうに見える敷居をまたいで見れば案外低いものですので、是非手にとって見てください。

作者のレムの大ファンです。ですがもう彼は故人となってしまいました。日本の新聞の扱いは酷くあっさりしたもので悲しかったです。こんなに素晴らしい作家なのに、と歯噛みしております。国書刊行会からレム・コレクションが刊行されていますが、全部でるのはいつのことかわかりません。ポーランド語がやりたい今日この頃です。

「ロコ!思うままに」大槻ケンヂ

今回は大槻ケンヂのこれ。大槻ケンヂほど知名度とCDの売り上げが一致しない人も珍しいと思うんですが、まあ奴の詩はほんと凄いし、話も面白いです。文体に変わったとこはない、というより色んな人から影響受けてんだろうなって感じの文体ですが、アイデアがとにかくずばぬけていて、もうそれだけで楽しいです。彼の「くるぐる使い」は星雲賞という日本SFの賞を取ってますが、たしかに凄く面白かった。でも気持ち悪いです。筒井康隆っぽいかんじ。


大槻氏はかなり、信者というか尊敬してるファンが多いし、かくいう私も信者とはいかないまでもかなり好きなので、少し褒めすぎちゃうかもしれませんのでその辺は差し引いてください。


これ、久々のオリジナル短編集です。エッセイはかいていましたが小説は久々な気がします。

タイトル作は新興宗教の教祖(つーのかな、自分をイエス様という電波なかた)の父親を持ち、監禁されて育った少年が、ある日美しい少女に出会い恋に落ち、ああ外の世界はおっかないっていわれてたけどあんな子がいるんだあ広い世界にでていこうかなあでもおっかないなあ、と悩みつつ、外の世界に足を踏み出す物語。

いい話なんだけどちょっとベタすぎるかもしれません。女の子とこんなうまくいくかよ、とかいう男性諸君の声が聞こえてきそうであります。世界観は確かに凄く面白いけど。


でも個人的にはこれより、妻と子を亡くして頭のねじがはずれかけた中年男が、ゲーセンのUFOキャッチャーでくまのぬいぐるみをゲット、しかもこれがしゃべるので(なのか、男の頭がおかしくなってるのかは謎なんですが)それとともに旅をしたり、一緒に寝たり、傍目にキモいとしかいえないことをしていくうち、魂がすくわれていく

「モモの愛が綿いっぱい」のほうが好きです。

しかも最後にSF読者がドキンとくるようなモヤモヤしたオチもついていて楽しいし、30男に萌えるやら泣けるやら、大変なことになります。

中年男性、もといお父さんが好きな人は是非。


この2つは結構いい話なんですがはきけさえこみ上げるひっどい話も結構あります。

特に女子学生のいじめ+殺しをかく「キテーちゃん」は、オカルト要素が少なく、実際ありえそうな気持ち悪い話。怖いの嫌いな人には本気でお勧めできませんし、そういうの慣れてる人にもオカルトがないだけほんとにイヤです。私はこれ、凄い惹かれた話でもあったのですがもう、気持ち悪くて悪くて。読後感の悪さはかなりのもんです。

あと「ドクター・マーチン・レッドブーツ」もヤバいです。これも若いときにやってしまうシャレになんない過ちなんですが、オチは不思議とオカルトめいていて、何かモヤモヤと心に残ります。


他にもなんかジョンレノンが現れたり、少年探偵団シリーズにオマージュを捧げた作品があったり。あんまり筋教えるとネタバレになりまくるんでこのへんまでしか話せないんですが、とにかくその奇想と、しつっこいぐらいの性描写や暴力描写はほんと、目を見張ります。

検索してもあんまりでないくらい作家大槻ケンヂは知られて無いようですが、本当に面白い作家だと思いますよ…でも手放しに「よんでも後悔しないよ!」とはいえません、そこが魅力でもあるんですが…でもクオリティは高いので、そういうのが大丈夫だとかむしろ暗くなるの大好きだよとか、そういう人は満足できると思います。あと、装丁がとても綺麗でイメージに合っています。好きです。


「少年時代」ロバート・R・マキャモン

最近ようやっとマンガにまた手をつけ始めたんですが、キャラクターの顔が変わっちゃって困ります。あと最近ポルトが勝ったんでテンション上がり気味です。まだだ!まだまだおわらんよ!


そしてまた感想有難うございます。とっても嬉しいです

>チンカーさん

サイダーハウスルールは映画も原作も見てません…。

そうそう、ハビエル・バルデムですね。凄い体重落として挑んだとかで、気合いが感じられます。スペインの俳優さんて味がある人多いですね。この人は夜になるまえにより海を飛ぶ夢でのほうがティルっぽく感じました。ふ、老け役だからかしら…。

ジョニーデップちょい役ですが存在感ありましたね。ちょっと笑いましたが。


あんまり褒めると照れるので勘弁してください。ユーモアのセンスは常々欲しいと思うんですがこればっかはどうにもなりません…私には無いですよ多分、ほんとに。アレナスとかアーヴィングとか、こういう文章書く人のさりげなくシモ系なwユーモアが好きです。

本当に本が好きなのか見る目が無いのか、どの本も私には素晴らしく思えてなりません。大ハズレっていうのに当たったこと無いです。日本の作家さんに疎いのが寂しいので、もっと読みたいです。


さて今回の「少年時代」、姉の勧めで図書館で借りて読みました。ハードカバーで上下2巻。ですがそれを感じさせないスピードで読んでしまいました。とにかく面白い!そして泣ける!すげえ読書体験した気分でした。本当面白かった。


ストーリーはコーリーという少年を主人公にして進みます。1964年、舞台はアラバマ。これも章形式で、明確な一本軸の長編というわけではありませんが、最初に大きな謎が提示されて、それが最後に解決を見る、というドキドキもんの展開が盛り込まれています。


話の内容はまんま、子供時代に感じた恐怖や、憧れや、悲しみです。小さい頃、「こういうことが起こればいいのにな」と思いながらも、大半の人が遭遇できなかった出来事に、コーリーは出会っていきます。町に伝わる化け物の伝説、死んでしまった愛犬の復活、魔女とも言われるミステリアスな黒人の女性、西部の英雄、人格を持つ自転車。

でも出会っているコーリーはそれを、胸をどきどきさせながらも「おこり得る事」として受け止めています。

一つのストーリーの軸は、彼と彼の父親が湖に沈んでいく車の中に、殺された男を見たことが発端として始まります。コーリーの父はその夢を何度も何度も繰り返し見てしまい、どんどん弱っていきます。家族の間柄もおのずと気まずくなり、しまいには彼は仕事すらなくしてしまう。

でもこれは大きな話の軸で、小さな子供時代の感情がつまった話が沢山盛り込まれています。あんまり話すとネタバレになりますが、例えば、コーリーが自分が長く乗っていた自転車を壊してしまったときに、彼は凄いショックを受け、ばらばらになった自転車を見つめながら、「ああ、これは死んだんだ」って思うところがあります。

父親はまだ直るかもしれない、といったりしますが、コーリーにはわかっていて、しっかりと死を受け止めるんです、自転車の死を。

このシーンはいかにも、小さいときには何もかも自分の周りのものは生命を持っていると考えていて、それが実際に(少なくとも彼の中で)現実になったってシーンですね。こういう、現実にあるはず無いと思われることがおこっていて、それがいかにも身近に起こりそうに思えるぐらい自然に書かれているんで、すごくノスタルジックな、切なくてドキドキする気分にさせられるんです。


登場人物も一癖も二癖もありまして、何でも直してしまうけど信じられないぐらい動きの遅い黒人の男性とか、ビーチボーイズを悪魔の音楽と罵りまくる神父とか、かつて西部をまたに駆けた経験をもつじい様とか、本当に面白いです。

凄く暗い話もあるんですが、読後感は非常にすっきりして、本を置いて自転車で出かけたくなります。ちょっと奇跡というか、ありえない夢をみがちになってしまったり。


しかしこういう作品で不思議なのは、私はアメリカ人じゃないからコーリーとは環境も違うし、○○社のキャンディバーとかいったって知らないし、自転車で走り回ったこともないのですが、なんだか凄く、懐かしい気持ちになることですよね。少なくとも子供時代という面では国籍も環境も関係ないんだろうなあと思います。


しっかし、これにでてきた黄色い目がライトに浮かぶ自転車、欲しいなあ。自転車売り場をウロウロしながら、ああこういう自転車だったらマジで感情持ってるんじゃないだろうかとか、もうどうしようもないこと考えて欲しがっています。バカですがしょうがない。本当にまだ何か起こるんじゃないかと信じてるんですよ。


とにかく、本当に素晴らしいファンタジー+ホラー小説なんで、是非とも読んで欲しいです。最近新訳で文庫も出たらしいですし。絶対、昔の気持ちを思い出すし、まだ何か信じていいんじゃないか、という気持ちにさせられると思います。私も借りて読んだので、もって無いんですよ。購入予定であります。


「夜になるまえに」レイナルド・アレナス

何となくゲイの小説についてもかきたいな、と思ったのでかきます。最近フランシス・キングの「鬼畜」もよんでこっちもなかなかよかったんだけど、これはなんか、ゲイ小説って言う枠でくくるような作品じゃないような気がしたんですよ。なのでアレナスを紹介したいと思います。

あと感想いただきました。すごい嬉しいです。

>チンカーさん

ラムサイトから有難うございます。最近どっちもマンガの更新がスカスカですが、長い目で見てやって欲しいと思います。そして本好きそうな方からの感想がとても嬉しかったり。

私もアーヴィングは「ウォーター・メソッドマン」以外未読です。ガープの世界と、あとサイダー・ハウス・ルールもこの人じゃなかったでしたっけ。ちょっと興味がでて、読もうかなという気がしてます。

あとスタさんに興味を持っていただけて嬉しいです。すっげー好きなんですよ。読んだときからもう、ズキーンというかんじで。

全集みたいのがでてないので、集めるのも結構大変なのですが、ハマる人には絶対ハマると思います。ブラッドベリが好きな人ならすきかもしれませんね。でもクセもあるので、ちょっとドキドキです。ハマらなくても怒らないでくださいw


さて、今回はレイナルド・アレナスの「夜になるまえに」。これは作者の自伝的小説です。彼はキューバの出身。バチスタ政権下で生まれました。その後革命に自身も参加し、カストロ政権になってから、彼の受難が始まるわけなんです。

でもあまり政治的小説とか、政治批判というわけではなく、彼の人生、ゲイとしての性体験が描かれていきます。だから、凄く個人的。例えば10年はあった部分が、数ページですまされていたりします。章仕立てで一章がとても短く、一度通しで読んだ後はパラパラ適当にめくった部分を読むのでも楽しめます。

土を口にしていた少年時代に描かれる描写は、壮大で、自然に対する惧れや神聖な思いと、思い出に満ちています。青年期になると、知り合いになった作家や、自分が文章を書き始めたきっかけ、そして政府に目をつけられ追い回され、最後はエイズで死に至ります。

さてと、彼、かなりの苦労人です。そもそもがゲイな上に、反共産思想の持ち主で、しかも作家。禁止されても禁止されても、誰かの目にとまることを信じて原稿を外国に送り出す姿には感動すら覚えます。そもそもこの人、とってもタフネスで自伝の中でも弱音なんて殆どはかず、小説まんまな数奇な人生を歩んでいても、後ろも振り返らず、自分が間違っているんじゃという疑念すらも感じられません。

裏切り者の作家には容赦なくバッシングを浴びせ(実際にいたらしいんですよ、ちくり屋ってやつ)、逆に生涯の親友には賛辞を惜しまず心の友とできる。どんなにカストロを憎んでいても彼はキューバが好きで、亡命したのもかなりギリギリでした。

亡命した後の文章はどこか寂しく、キューバで逃げ回ったときより覇気が無いような気もします。気にしすぎかもしれませんけども…

冒頭に引用されている(巻末だったかもしれません…ほんとに私の記憶力ってry)「はじめに/おわりに」という文章は、エイズで命がいくばくも無い彼が書いた序文です。そこには自ら命を絶つこと、自分にはもう戦えないこと、だがキューバの若者はまだ戦うことが出来る。自由になれ、僕はもう自由だ、といったことが書かれています。彼の強い思いに、ぐっと涙がこみ上げてきます。

こういうとどうも暗そうだな、と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

本作で顕著なのは作者の素晴らしいユーモア。例えば「ホモの4つのカテゴリー」(だったかな?今手元にありませんので…)という章では、ゲイが首輪ホモとか色々分けられてかかれてるんですが、これがおかしいのなんの。あとはアレナスの友人で優れた作家でもあるビルヒリオが、黒人コックが料理してる間にケツほられるのがすきとか、そういう面白い話が一杯なんですよ。

彼本人も言ってますが、独裁という絶望的な状況ではユーモアが一番大事なんでしょうね。本当に、これを無くすと無味乾燥な人間になってしまうんでしょう。

本当に面白く、冒険ものを読んでいるように胸が弾み、なおかつ主人公(つまり作家)の勇ましさにしびれ、ぐっと感情移入して苦しさを覚えさえする。そんな物語小説のような魅力を備えた自伝小説です。反共産っぽいところもあるので、セリーヌ好きもハマるかも。

わたくし、恥ずかしながらこれ読む前は独裁もモノによるだろと思ってたんですよ。カストロがあんな方向性に走ったのも、国があんな状況なら仕方ないんじゃないかとかね。でも独裁は独裁なんですよやっぱ。国は民が作んなくちゃいけません。そういやカストロまた生き延びやがったんだなあしぶといジジイめ。

とにかく是非一読してください。絶対何か残るものがあるし、貴重な読書体験ができると思います。図書館でかりて読むとかじゃ勿体無いぐらいですよ、これ。

あとなんか元気がでるんですよ。不思議だけど。こんな苦労してるヤツがいるんだからがんばらなくちゃなあという考えなのかもしれないし、ただ純粋に感動するのかもしれませんが、これと映画『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』があれば元気100倍です。メーター振り切れます。

ちなみに映画にもなってて、アレナスを演じてる俳優さんちょっとティルみたいだなあとか(ラムシュタインのです…知らない人はメンゴ)思ってたら、実際見てみたら全然かっこよかった。
映画自体もなかなかなできですよ、原作ファンからしたら全然物足りないけど…まあ印象に残ったセリフは「この扁平尻!」でした。すごいよね扁平尻って侮辱。

「ホモセクシャルの世界史」海野 弘

他でもありませぬ、私はゲイカルチャーの研究なんかが大好きです。といっても本を読んだりするぐらいなもんですが、最近のゲイ雑誌のアートからミケランジェロまで、非常に興味を持って読めます。

で、とりあえず興味はあるって人にも勧めたい、濃い~読み物がこれ。

とにかく、ジャパンやアジア系以外のゲイに関しては古代ギリシャから近代ハリウッドまでてんこもり。そんな具合ですから結構浅い部分もありますが、こんな人いるんだ、て興味もって資料調べるには満足のできばえです。とにかくワイルドコネクションやYMCA、当然ニジンスキーまでひじょ~に詳しいコネクションが紹介されていて面白いです。あとはハリウッド。この人もゲイなの!?というミーハーっぽい驚きも楽しめますよ。巻末資料の豊かさも魅力で、作者さんのがんばりっぷりが伺えます。この人、レズビアンの本も出したいらしいのでそっちも凄く期待しております

個人的に興味もてたのは美術関係。シュルレアリストの話のところも結構楽しかったです。相違や姉がブルトンはホモに冷たいって言ってたなあw

あと作者さんの個人的見解も結構入ってたんですが、それで納得だったのは「よくゲイという部分を避けて伝記を書いている人がいるがこれはどうにも生ぬるい」って所。ランボーやカラヴァッジオからそこを除いたら、何にもならんと思うんです。NHKがオスカー・ワイルドをあんまり扱わないのはそこだからなんだろうか、と穿ちすぎな見方をしてみたり。

まあとにかく、一読しただけでゲイカルチャーの奥深さ・面白さがわかるので、是非お勧めします。「妄想は楽しいけどリアルはちょっと」という、所謂腐女子の方も手にとって見てはいかがでしょうかwもちろんモノホンゲイの人も知的好奇心があるひともどうぞ。

あとは日本のゲイについてまとめたやつがあれば最高なんだけどね…

「ウォーターメソッドマン」ジョン・アーヴィング

今回は読みたてほやほや、ジョン・アーヴィングのウォーターメソッドマン。

のっけから泌尿器科でフランス人に治療を受けている主人公、ボーガス。このシーンがまたしょっぱなから面白いんですよ…。

ボーガスはもう結構いい年で、博士号取得のため古代低地ノルウェー語というわけわかんない言語を研究しており、その研究対象は「アクセルトとグンネル」。
しかしこの男、イマイチなにに打ち込みたいのかわからず、ちっとも進まなくなり、ついにストーリーのでっち上げまでやり始めます。おまけにチンチンの病気で泌尿器科を出入りするも、はっきりした対策は見つからないまま、冒頭のフランス人の泌尿器科に勧められたのが水療法というふざけたもの。これがタイトルの元です。

彼はバツイチで、前の奥さんのボギーと、今の恋人トゥルペンの話し、あと彼がサウンド担当をしているラルフというドキュメンタリー映画監督との話しあたりがメインでしょうか。
章ごとに分かれていて、しかも時間軸もゴタゴタ、でもその分「ああ、ここはこうつながるのか」とわかって面白いです。語り口も「僕」だったり「彼」だったりして、凄く散らかった印象。でも口語体の文章はどこかピリっとしていてユーモラス、でも少し悲しい。

もう青春って年でも無いんだけど、主人公はいまいち大人になりきれず、しかもそのまま父親になってしまう。彼はその実感がわかないまま、現実から逃げるように国外に心酔していた友人・メリルを探しに行きます。
このメリルという男がまた面白くて、糖尿病なんでインシュリンをうってるんだけどこれをうちすぎて、しかたなくまた糖分をとり、そしてまたインシュリンを…の悪循環を繰り返す、まさしく主人公にぴったりの悪友。ボーガスの心にはいつもこのダメ男、メリルが理想の人物として登場します。

はっきりしたストーリーってのはないんですが、凄く面白かったです。本当にダメ人間で、別に苦しいコンプレックスがあるわけでもなんでもないんだけど、いまいち大人の世界になじめず、それなりに楽しくやってるのにやる気もなくて、何にもうちこめない、っていう主人公です。でも彼は子供と過ごしたり、色んなものを経験していくうちに少しずつなにか、目には見えないのに変わっていく。エンディングはハッピーエンドなんだけれども、彼がどうなるかはわからない。ただ妙にさわやかなボーガスの独白だけがぐっと心に残ります。

このボーガスって男はいいな、って思ったのは、彼は自分の息子に「白鯨」の創作話をするんです、船長が主人公じゃなくて鯨が主人公の。それで巨大な鯨の話をして、海を見つめながら、心の底から「このこのために鯨を出してやりたい」って思う。すべてが物語であることをわからせたくなくて。

でも結局、息子がある程度大きくなって会ったとき、ボーガスが「鯨を見た、確かに島かなんかだったかもしれないけど、水をひれで叩くばしゃって音が聞こえた」っていうんですが、子供は「やっぱり、ただのお話だよ」と答える。その時ボーガスは、この繊細かつ愛すべきダメ男は、泣きそうになってしまうんですよ…。

本当に憎めないし、誰でも心のどこかでこういう、迷惑だけど魅力的な男を求めてるんだな、と思いました。彼が冷たくされたり、酷い目にあったりすると、彼自身に責任があるのに、やっぱり気の毒に思えてしまう。そのせいか知りませんが、ボギーはあんまり好きになれませんでしたねえ…スークも…。

エンディングはさっぱりしてるんですが、とっても幸せな気持ちになれます。ボーガスの未来に幸あれ。願わくば彼の身に、飽きることの出来ない様々な出来事が起こり彼が退屈せず過ごせますように、と思ってなりません。大好きだこいつ。いやほんと、脇じゃなくて主人公がこんなに愛しい小説も少ない気がします。あと訳も素晴らしいのか、あっちこっちおかしくってたまりません。読みながら何度も笑い声がでました。サリンジャーが好きな人なんかも好きそうですね。おすすめです。

スタージョンについてちょっと

自分がなに読んだか覚えておくためだけの書評、というつもりではじめたのですが、まあたまには作者のことを書いてもいいかと。でスタージョン。すげえ好きな作家です。愛してる。


SF作家として知られていますが、ミステリーの範疇にはいる…のかな?という作品も多数かいています。特徴として、文章がうまい(私も原文は読んでませんが)、そして頭のねじが2,3本とんでそう、ってことですか。


何しろブルドーザーが人を襲うものから、性別の区別ない人間が生きる星、当時珍しかったホモをテーマにしたもの等、とにかく節操無く設定から人物まで奇想を練りこみまくる。

しかも凄いピュアな人なのか、前述した性別の区別の無い星は、ここまでやったら気持ち悪いだろ、てくらい極端な男女平等なのですが、驚いたことに彼はそれを何のアイロニーでもなく、「これって理想郷じゃん?」て感じで、当然のごとくかいておられるのであります。

ホモの話にしても、なんら社会問題やらを持ち出すことなく、純粋な愛の物語としてかかれているために、どうにも違和感がありさながらそういう趣味の女の人がマンガなんかでかいているアレやソレみたいです。

極端な話をすると、すごい共産思想なんですね彼は。極端すぎ。ついていけない。


でも彼が書く話がどことなく悲しいな、と思うのは、社会のはみ出し者が出てくることが多いから。どこと無く違和感を感じて打ち解けることの出来ない人達。そしてそういう人たちの行き着く先は、どうしても明るい未来ではありえないことが多いんです、彼の小説の場合。しかもそれを、おかしみ交えたちょっと狂った設定でかくもんだから、なおさら悲しく感じてしまう。しかも何故か大抵、キモメン。その設定はいるんだろうか、と思うこともしばしばですが。ただでさえ精神的不具の方達なのだからそんなハンディはもういらないっての。


ご本人の話をちょっとさせていただくと、パーティ会場で人目もはばからずバク転したとか(何があったんだよ?宇宙人に襲われたのか?)、若い頃彼どうしようかと思うぐらい美男子だったよお(意訳)とかの有名なSF作家ハインライン氏に言われたりとか、あと作家として成功しかけてたのに突然ホテルを買ってビジネス始めちゃったり(女に作家やってよあんた、て言われてまた書き出したとかな)、自分で「これ、俺の最高傑作かも、すごくね?」とかいってた作品が読んでみたらスゲーつまんなかったり(私見ですが。ちなみに「ここに、そしてイーゼルに」てやつです)、本人も結構突っ込みどころ満載な感じです。キモメンの話とか、はみ出し者の話とか書いてるのにご本人はイケメンで世渡り上手な感じなんですね。畜生が。


ええっと、彼の作品はまとめた全集とかも無いので根性で集めてください。前紹介した輝く断片は河出のハードカバーですが、もう一個同じ奇想コレクションで「不思議のひと触れ」。こちらは少しSF要素もあり、なによりファンタジー要素が強いのでそういうのが好きな方にもオススメ。はっとするほど孤独の描写が美しいです。

あと『海を失った男』こちら晶文社のハードカバー。「墓読み」が大好きです。これもファンタジー色強し(こうしてみるとコイツSF少なすぎね?)。これは全体的に奇想作家としての色合いが強いかな。ホラーっぽいのもありますよ。ここまで日本オリジナル短編集。

あと最近復刊した「一角獣・多角獣」ってのがありますが、私読んでません…アメリカででた短編集のそのまんま日本語訳なんですが。収録作の殆どが他の本で読める上に、何作かがページ数(ソレと多分、内容だろうなあ…上のホモの話はこれにはいってました)の関係で省かれてます…。


あと単行本。『時間のかかる彫刻』(上で話した「ここに、そしてイーゼルに」収録。スタージョンの自慢げな顔を想像しながら読むとムカムカするのでお勧め。でも他の作品はいいよ)、中編の『夢見る宝石』『きみの血を』(←ヴァンパイアもの。未読)あたり。

ホモセクシャルがテーマの「たとえ世界を失っても」(またクサいタイトルだよね…)は、河出文庫20世紀SF2、1950年代、初めの終わりというアンソロに入っております。ちょっとあまったるい感じもするけど、凄くいい話です、これ。

長編は国書刊行会の『ヴィーナス・プラスX』。例の性別の無い世界ってわけですが、面白いんだけど、これから入るのはあまりお勧めしないかもしれません。



とにかく、知ってると人生で凄い得をした気分になるので(一粒でミステリ・ホラー・ファンタジー・SFとおいしいし)なかなかいい作家さんです。是非お勧めをします。


まずはこれ「輝く断片」シオドア・スタージョン

まずはこれ。シオドア・スタージョンの「輝く断片」。

スタージョンという人は大体SF作家なのですが、この日本独自の短編集ではミステリ系ばかりを集めております。大好きな作家さんなんですが、正直言うとこの人のはSFよりミステリ系の方が好きです。多分あんまり科学知識の無い人だと思う。

んでこれ。基本的に入っているのは、ミョーな味わいの下らんナンセンス系と、死ぬほど切ない系に分かれております。これが名品ばかりで、選択した方が一番偉い、と思えるくらい。個人的には「君微笑めば」から先は皆切ないと思います。

一個だけ話を上げると、「マエストロを殺せ」。主人公はブサイクでぱっとしないMC。んで彼がついてるバンドのリーダー、ラッチは男前で演奏がうまくて、性格もまあ、いい奴。人当たりがよくて天才で、面倒見もよくて。それに比べて主人公はどちらかというと陰気、それもMCという仕事のせいかどうにも卑屈な男です。んで、彼らのバンドのピアニストがやめてしまい、かわりに女の子のピアニストが入ってくるんだけど、主人公はすっかりこの子にのぼせ上がってしまう。でも女の子はすっかりラッチに夢中。それをきいて主人公はラッチを殺すことを決意する。

どうもこれ以上かくとネタバレになってしまうんだけど、主人公の気持ちがすっごくリアルです。ラッチみたいに何もかも完璧に見える人間っていて、でそういう人に限ってちょっとしたはみ出しものとか、卑屈な人間に対して何か手を伸ばしてくるんだよね。でもそういうのがやられるほうは苦痛に近くて、バカにされてるような気分になる。主人公は本当に陰気で、嫌な奴でもあるんだけど、少なくとも個人的にはとても感情移入できました…よ。

あと言い忘れてましたがこれ、ジャズ小説です。またこの描写が凄くて、メンバーの演奏が伝わってくるよう。メンバー一人一人の個性までばっちりかかれてるんで、バンド小説としてもかなりの完成度。楽しめます。またラッチがなかなか死にやがらねえんですよコイツ…。

他にも、書類で決まる社会っていうのを、溶け込めない頭の弱い男の視点から皮肉っぽく、おまけに悲しくかいた「ルウェリンの犯罪」も凄いです。

主人公ルウェリンは、周りの男達が罪を犯してることを(今日あのスケとヤッタんだぜえとかいう感じ)自慢げに話すのをきいて、自分も何かしら、秘密の罪を持たないと考えてるわけです。そんなことを真剣に考える主人公が笑えるなあ、と思ってますと、あれよあれよという間にいろんなことに巻き込まれ、意外な展開になります。そしてラストは…泣けますなあこれも。

この短編集に入っている、切ない話はどれも、何かしら悲しみや怒りを持つ主人公達の周りにいるのは比較的普通の人たちです。主人公に悪意ももってません。それどころか思いやりさえする。けどそれが主人公には重荷になる。なにかのため、といって手を伸ばしてくる人間と、自分はここにいたいんだと静かに思い続ける人間と。後者は所謂「生まれたことが失敗」て人間なんですね。生きてる世界が違いすぎて、何をやっても傷ついたり傷つけたりしてしまう。

基本的にちょっと特殊な、繊細すぎる人間が主人公であることが多いんですが、そうした要素を少しでも持ってる人なら誰でも彼らに共感できると思います。切ない話を読みたいけどクサい奴はちょっと、話も面白くないとねえ、という人や、純粋に奇想作品好きな人にもお勧めできます。捨て作品のないまさしく傑作短編集。